郷土芸能保存への取り組み 「神楽とともに」
(岩手県大迫町)
本町のシンボルとも言える北上高地の最高峰早池峰山(はやちねさん)は、中世以来、修験山伏たちの道場として栄え、里人からは「御山(おやま)」と呼ばれて篤い信仰を集めてきました。その早池峰山の修験山伏たちが代々舞い伝えたと言われているのが、岩手県中央部一帯に伝わる「山伏神楽」です。現在、本町には宗家にあたる二つの神楽座、早池峰山麓の岳(たけ)集落に伝わる岳神楽と、里に近い大償(おおつぐない)集落に伝わる大償神楽とがあり、両神楽を総称して「早池峰神楽」と呼んでいます。
早池峰神楽は、昭和51年5月、中世芸能の香りのする希有な神楽として、国の重要無形民俗文化財に指定されました。以来、本町では神楽を中心とした民俗芸能保存活動が行われ、町のキャッチフレーズも「神楽とワインの里」といいます。
本町では民俗芸能関連施設として、昭和56年に「郷土文化保存伝習館」を岳集落に開館しています。民俗芸能の伝承と紹介、資料の保存などを目的としており、神楽の練習・鑑賞ができる伝承ホールや展示室、収蔵室などを備えています。
また、平成6年には、昔ながらの農家のたたずまいで神楽を練習・公開してもらうことを目的に、明治時代の民家を大償集落に移築して「神楽の館」と名付けました。ここで大償流神楽を伝える各保存会の子どもたちが一堂に会する「大償流神楽後継者交流会」も始まり、今年で10年目を迎える交流会には延べ300人以上も出演しています。しかし、出演した子どもたちの中から、保存会に入って伝承活動に参加している若者は、わずか2人だけという大きな課題も見えてきています。
地域活性化事業としては、平成2年から民俗芸能を通して都市と山村との交流を進める「神楽鑑賞ツアー」を開始。今年で15年目を迎える本事業には、首都圏から毎回多くの参加者があり、神楽に魅せられた方々で「早池峰こまどり会」という後援組織を作って、今も熱心に応援してくれています。
平成8年には、早池峰神楽の国指定20周年を記念し、全国各地で伝承されている神楽を招聘して「全国神楽大会ハヤチネ'96」を開催しました。本大会は、2日間で町人口の3倍近い2万人もの観衆を集め、全国最大の神楽イベントとして高い評価を受け、神楽の里としての本町のイメージも定着しました。
この大会を機に、もっと地元の神楽を知りたいという声を聞きました。そこで、平成9年から3年間にわたり町内の神楽団体だけで「神楽春の舞公演」を開催することになったのです。会場であるコミュニティ体育館は、毎回立ち見が出るほどの盛会。あらためて民俗芸能のもつ底力を感じる良い機会となりました。
本町も平成18年1月1日には、近隣市町との合併により新市に移行しますが、今後も地域の民俗芸能を大切に守り育てるよう努力していきたいと思います。
「神楽の館」で舞う大償神楽の子どもたち
「全国神楽大会ハヤチネ’96」にて(岳神楽)