由利本荘市の民俗芸能
(秋田県由利本荘市)
本海獅子舞番楽(重要無形民俗文化財 平成23年3月9日指定)
奥羽第一峰「鳥海山」(国指定史跡)の麓に位置する秋田県由利本荘市鳥海町には、獅子舞・番楽が伝承されています。
かつて鳥海山は山伏修験者が修行の場とした霊山でありました。山形県側の蕨岡口を順峯とし、秋田県側の矢島口を逆峯とする当山派(真言宗の僧 聖宝 を祖とし、京都宇治醍醐寺三宝院を本山とする一派)の修験道です。
約380年前の寛永年間(1624〜1644)に京都醍醐寺の三宝院に属する修験者で、芸能に優れた本海行人が鳥海山の麓の村々に伝えた修験的な行事を取り入れた獅子舞と、番楽と称する芸能とを総称して「本海獅子舞番楽」と呼ばれており、鳥海地域には寛永3年(1626)に伝承されています。
獅子舞大先達ともいわれる本海行人は、京都から来た人だというだけで経歴は不詳ですが、鳥海の村々に教え、矢島で教え、荒沢を最後に70余年で没したとされ、その碑は同地の白山長根にあり、安永八年(1779)3月18日のものには「本海行人」と刻まれ、下部に蓮座図の線刻があります。
かつて、本海獅子舞番楽は、鳥海町直根地域で七講中、川内地域で七講中、笹子地域で八講中など鳥海町全域にありましたが、その一部は昭和初期から戦時中に絶えたところもあります。
現在、本海獅子舞番楽を伝承している団体は、上百宅講中・下百宅講中・上直根講中・中直根講中・前ノ沢講中・下直根講中・猿倉講中・興屋講中・二階講中・天池講中・八木山講中・平根講中・提鍋講中の13講中であり、平成23年3月9日に国の重要無形民俗文化財に指定されました。
獅子舞・番楽が途絶えたところでも、獅子頭はもちろん、番楽幕・太鼓・面などの道具が残っていることから、権現獅子として村人の心に宿り厚い信仰に支えられて来たもので、方々にある獅子舞番楽師匠の碑がそれを物語っています。
獅子舞や番楽には多くの道具を必要とし、代々講中で受け継ぎ、大事に取り扱われてきました。講中で作らせたものや寄贈されたもので、寄贈のものには記銘のものが多く、中には200年以上も受け継がれて来たものも少なくありません。道具には獅子頭・鳴り物(楽器)・面・冠り物・衣装・採り物・番楽幕・言立本などがありますが、いずれも製作年代がはっきりしていて、途中で手を加えていない古いものほど文化財としての価値が高いとされています。下百宅講中が所有する番楽幕には延享4年(1747)の年号が入っており、264年前のものです。また、最も古い道具とされる多宝院の獅子頭には、明暦4年(1658)の年号が入っており353年前に作製されたものが残されています。
本海獅子舞番楽は、1月の幕開きから始まり、虫追いや盆獅子などを行い、年末の幕納めで一年を締めくくっておりますが、その活動は個々の集落や講中毎となっており、一般には公開されておりません。由利本荘市では、毎年8月16日に「鳥海獅子まつり」を本海獅子舞番楽の競演会として開催しておりますので、是非一度ご覧いただきたいと思います。
「鳥海獅子まつり」の詳細については由利本荘市教育委員会鳥海教育学習課(0184-57-2881)までお問い合わせください。
下直根講中(御神楽) 下百宅講中(祓い獅子)